変わらない愛を見つけに行こう 藤田麻衣子「wish 」
私が愛してやまないシンガーソングライター藤田麻衣子さんが、1年という短いスパンでアルバムを出すと聞いた時は嬉しい悲鳴をあげたものだ。
ギターが趣味である私は、音楽を聴くといえば覚える為に聴くためになってしまうのがほとんどになってしまった。しかしやはり歌というのが面白いのは、うまいからと言って伝わるわけではないこと。
何かしら思い入れがあるなら、下手でも伝わるものがある。それを隔てる壁はなんなのか?明確な答えはないであろうが、その一つのヒントは、やはり好きな音楽を心ゆくまで楽しむということだろう。ではさっそく聴いてみよう。
「wish 〜キボウ〜」
まずアルバムタイトルにもなっている「wish 〜キボウ〜」という曲について触れなければならない。昨今の妙に、不自然に明るく振る舞うような音楽シーンからすれば、wishという単語を聞けばハッピーな内容を思い浮かべるところだが、彼女の場合は一味違った。
冒頭で
「誰かがいった 希望はあなたを捨てないと あなたが希望を捨てるのだと」
重っ!!!
がしかし、それが藤田麻衣子。
それでこそ藤田麻衣子。
重い歌詞こそが藤田麻衣子の真髄なのだ。メジャーに変わろうが大衆に魂は売らない。万人に届けるような歌など虚構でしかないとわかっているのだ。わかっていながら滑稽な役割を演じるのもよかろう。しかしそんなことをするにはまだまだ若すぎる。
リード曲で高々と宣言することに成功していると言えよう。
全体としての流れ
日本のアルバムには珍しく、ただのシングルっぽい曲の寄せ集めにはなっていない。全10曲とコンパクトにまとめられていて、1〜2曲だけ妙にいい曲があるといったバランスの悪さもない。
1曲1曲がさらっとしていて、通して聴くには非常に心地のいいアルバムだ。
全曲のバランスがよく、これぞアルバムのお手本のようだ。
詞
藤田麻衣子の最大の個性といえば、詞にある。しかし私は今回のアルバムはいろんな意味でサラッとしているように思う。歌詞も同様だ。
というのも決して流して書いているという感じてはない。今まではとにかく言いたいことを歌詞に書いていたように思うが、今回のアルバムの詞はあくまでも歌詞。
メロディにきれいに乗るような言葉を選んでいるように感じた。特別刺さるような歌詞は多くはなかったが、聴いていて非常に心地良い言葉をチョイスしていたようだ。
歌
歌も同様にサラッとしている。今までは感情をたっぷりのせた歌唱だったが、全体を通してさらっと歌っている。その歌唱にはもはや貫禄さえ感じる。
本能のまま、感情のまま歌う緊迫感を乗り越えたのが今の藤田麻衣子の歌唱になっているのだ。
しかしそれは必ずしも落ち着いたという意味ではない。むしろ何でもないような一言にさえガンガン感情が伝わってくる。この説得力は一朝一夕で形作られるようなものではない。彼女のこれまでの活動の一つの到達点と言えるだろう。
まとめ
このようなちゃんとした流れのあるアルバムがあるというのは、音楽ファンとしては嬉しい限りだ。
歳をとると、段々と心が動かなくなるようだ。若い頃のように向こうから楽しいことがやってくるわけでもないし、日々の生活に疲れてあまり心が揺れ動かないように心が防衛本能を働かせているのかもしれない。
しかしいくつになっても、ときめいていたいものだ。胸が熱くなるような気持ちを思い出させてくれる音楽。そういったものがある限り、人は強くいられるのだと信じたい。
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