帰ってきたヒトラー 上・下(全2巻)
あらすじ
第二次世界大戦時、世界を恐怖に陥れたドイツの独裁者ヒトラーが、もしも現代に蘇ったら?というコンセプトのブラックユーモア。
あまりにも際どいジョークの数々に、不謹慎と思いつつも笑いを堪えきれなくなってしまう。
そう思ってしまうことが、まさにヒトラーの恐ろしいところ。華麗な話術で民衆を束ね、熱狂の渦に巻き込む。
最初はヒトラーを笑っていたはずだが、最後にはヒトラーと一緒に笑っているあなたがいるだろう…
もしもの話
ヒトラーと聞けば、世界大戦時に多くのユダヤ人を死に追いやった、極悪非道の独裁者というイメージだろう。イメージというか、まさにそのとおりの事をしたのだが。
本国ドイツでは、未だに公の場でヒトラーの名前を出すことさえはばかられるという。
しかしそのドイツから「もしもヒトラーが現代に蘇ったら」というコンセプトの小説が出ようとは誰も夢にも思うまい。これほどのブラックジョークもないだろう。
しかし人は禁止されればされるほどやってみたくなる衝動に駆られるように、この禁断ともいえるようなテーマの小説を読んでみたいと思うのは、人としての性であろう。
私は常日頃から、平和という事実に疑問を持っている。それが転じて戦争の事実に関しての興味にもなっている。
それゆえにこの小説を読むこととなった。
際どいというか、ぎりぎりアウトになりかねないほどのブラックユーモアがてんこ盛りのこの小説。
時は第二次世界大戦。その頃のベルリンの風景といえば、瓦礫の山、塹壕、鳴り響く警報…
そのような光景が当たり前の時代に生きたヒトラーは、2011年のあるうららかな日に、ベルリンの小さな路地に目覚めた…というところから話は始まる。興味のある方はぜひ読んでみてほしい。
まとめ
かなりの人種差別的なフレーズや物騒な発言もあり、このような小説を出版するとは、なかなか勇気のいることだっただろう。
第二次世界大戦が終わってからもう70年以上たった。戦争を体験した人々も少なくなり、記憶から失われつつある。
いくら「戦争はダメな事だ、絶対にしてはならない」といったところで、経験したことのない人たちには本当の意味では伝えられない。
かといって、当時の映像を生々しく放送したりするのも難しい。膨大な量の資料を読むのもハードルが高い。
それなら一体どうすれば人々は戦争という事実と向き合おうと思えるのか?それこそが「笑い」ではないか。
もちろん、戦争と笑いとはもちろん相反するものだ。しかし無理矢理フタをしてなかったことにすることもできない、真正面から向き合うのも恐ろしい。ならば発想を変えて、戦争を身近なものに感じられるブラックユーモアにしてしまえばいい。
本書はブラックユーモアではあるが、ヒトラーという人物に興味を抱くには素晴らしくとっつきやすい。
それを土台に人々が自分から戦争の事実を知ろうとし、自分の意見というものをそれぞれが持てば、それが平和への一歩になりうると確信している。
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