住めば都
私は九州の田舎に住んでいる。
生まれたのはこの県の少し都会よりのところだが、三歳くらいで父の地元のこの街に引っ越し、以来この街から一度も離れることなく暮らしている。
なんの変哲もない、ただの田舎・オブ・田舎。
映画館もない、大型商業施設もない、新幹線も通っていない。10年くらい前に高速がつながった。
退屈な街なのだろうか。同級生の女の子が何人か都会の方へ出ていった。
つい先日もひとり、この街を出ていった。
九州の都会の街へ行ったことは何回かある。
たまに行くなら楽しいが、車は多いし人は多いし道は分かりづらいので、住みたいなど全く思わない。
それほど都会ではないが、遠くの街に行ったことも何回かある。
しかし何時間もかけていった割には、私の街とそんなに変わらないような町並み。
ならあえて引っ越す手間をかけるのもどうなのだろうか。
私には全くメリットを感じられない。
若い頃、遠距離恋愛をしたことがある。
かなり熱を上げていたので、この街をでて、その人の住む街へ引っ越そうかと考えたこともある。
その時初めて、この街を意識した。
なんの特徴もない、退屈な街。高齢者ばかり。
しかし住み慣れた街…いまでも特にこの街に思い入れはない。
多分私は、自由に趣味のギターを弾けるならどこでもいいのだろう。
それができるなら、別にこの街でなくても構わない。
この街を出ていったたくさんの友人たち…
「こんな小さな町で一生を終えたくない」という。
その気持もわからなくはない。
実際、この街をでた先でいい人と出会い、結婚した人もいる。
出た先でも何も変わらず暮らしている人もいる。
出ていって、またこの街に戻ってきた人もいる。
私にはどう考えても、住む場所で人間が変わるとは思えない。
自分を探しに行くという人もいるが、まず今いる場所で探したのか?というのが正直なところ。
それでだめならどこか別のところへ行けばいいが、それをせずに突っ走る人もいる。
夢を追いかけて上京…その言葉は美しい。それで夢を掴んだ人もいるだろうが、その影に一体何千何万の夢やぶれた人がいるだろうか。
住む場所に興味などない。住みたかった街もない。
ただ自分の好きなことができれば、そこが都である。
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