父は何かを怖がっている
私の父は、何かを怖がっている。
父は「色々あったんだよ」と、疲れた顔で言う。
格安スマホに変えたいと言っているが、「これは110番や119番に掛けられるのか?」と聴いてくる。
掛けられるに決まっているし、一体人生で何回110番や119番に掛けるだろうか。
父は家のいたる所に火災報知器を付けている。
消化器もいくつか。
災害用の備蓄も。
夜、人感センサーで点灯するライトを玄関の外ならまだしも、内側にも付けている。
ほうけたようなじいさんばあさんしか近所にいないのに、やたらとお隣さんを気にしている。
父は「色々あったんだよ」と、疲れた顔で言う。
父は必死で自分を保とうとしている。
私の父は、何かを怖がっている。