Story of my life

日常に転がる疑問を掘り下げるだけ掘り下げて放置

たまには立ち止まって一息つこう。チェーホフ「ロスチャイルドのバイオリン」

あらすじ


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主人公は、小さな村で棺桶屋を営む老人ヤコフ。妻のマルファとクソ狭いワンルームで暮らしている。


この村では棺桶屋は儲からない。何故か老人は皆しぶといので、なかなか死なないのだ(ひどい)


棺桶屋だけでは食いっぱぐれてしまうので、バイオリンの名手のヤコフは結婚披露宴などで演奏して小銭を稼いだ。


ヤコフは常に「損失」に気をもんでいた。もし音楽抜きの結婚披露宴になったら損失、そろそろくたばるかと思っていた老人が旅先で死んでしまったのでこれも損失、そんな心配ごとで年中気をもんでいるのでそれもまた損失。


生きているだけでどれだけ損失を生んでいるのだろうかとヤコフは考える。


そんなおり、妻のマルファが病に倒れ、もう長くない事を告げられる。そんな状況になり、ヤコフはようやく気付く。50年も連れ添って来たのに、妻の事をほとんど顧みずに生きてきたことに。


やがて妻は亡くなった。若い頃妻と来た美しい川辺にふらふらとやってきたヤコフは、長い年月の間にすっかり景色が変わってしまった事に初めて気付く。なぜ人は損失なく生きていくことはできないのか?

 


感想


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短いながらも老人ヤコフの葛藤をみごと描いた短編小説だ。


個人的に私も新しい仕事を始めたばかりで、新人だからなのか、その会社のよくわからないシステムにイライラしてしまう。どこにいってもしょうもない手順を踏まないといけない仕事はあるのだろう。


無駄だなぁと思いながらもやらなければいけない。好きなことだけやって生きていくことができるのは限られた人のみだ。


この小説の主人公のように、私も細かいお金の損得に敏感なものだから気疲れする事も多々ある。そして日々の生活で忙しく、のんびりする時間も忘れてしまう。


この前久々に子どもの頃よく行った神社に行った。その神社から大きな工場が見えるのだが、今はもう動いていない。小学生の頃、図工の課外授業でその神社で絵を書いていた事を思い出した。あの頃はまだその工場も可動していた。


もう動いていない工場を眺めていると、巨大なタンクの上に小さな木が生えていることに気付いた。もう人間の手の入らなくなったところで、しぶとく植物が生きていたのだ。


さらに見ていると、鳥たちがその工場の合間へ入って行くのも見えた。巣でも作っているのだろう。


工場が動かなくなったのは人間にとっては損失、しかし動物たちにとっては嬉しいことなのだ。


ふと立ち止まる事が大事だなぁと思った瞬間であった。

 

 

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